迷える中年ライターが『修証義』を書き写してみた ~曹洞宗のお経を一般人が読むと?(第3章・第14節)~

2017.11.20

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初めて触れる『修証義しゅしょうぎ』の本文を読み、鉛筆を手に書き写し、また現代語訳を読む中で感じた事を率直に語っていきます。第14回は、第3章「受戒入位」の第14節について。

honbun第14節 「此帰依仏法僧このきえぶっぽうそうの功徳」

■ライターはこう思いました

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ライター 渡辺ロイさん

なんだか見たこともない言葉が原文にたくさん出てきたこの節。
簡単に、しかもちょっとばかりフランクに要約すると、こんな感じです。
三宝を心の支えにすると、どんな人であろうと、その人の心と三宝の徳が共鳴しあって一体となって、みんなの大好きなビジネス英語的にいうとシナジー効果が生まれる、と。
その教えに身を捧げることができれば、時と場所を選ばずに精進の気持ちが芽生え、悟りへの道をえることができますよ、と。
このようなことを言っています。

この節でライターがまず感じたのは、原文にちょっと大げさな言い回しが多いな、というところです。

「どんな人でも」を強調するために天上人や鬼を例に出してきたり、「時と場所を選ばず」のところでは「生生世世在在処処」と強め、「悟り」をあえて「阿耨多羅三藐三菩提」という至上の悟りとして強調しています。
いえ、内容が大げさ、ということではありません。三宝についてこれまでに言われてきたことを再確認しつつ、中でも「法」の部分を強調している内容です。ただ、原文に使われている言葉が少しオーバーなんです。

門外漢である一般人の私たちが、宗教に少しだけ距離を感じてしまうのは、こういう「意図的な荘厳さ」です。

仏が説いたさまざまな言葉は、いろいろな環境の人たちに対して、より効果があるように様ざまな形にアレンジされて発せられたといいます。
仏教的に言えば「応病与薬」というそうです(ちょっと勉強した!)。
健康になるという目的は同じでも、病によっては与える薬は違うものとなる、ということ。
現代と『修証義』が成立した時代では大いに背景が違いますし、想定読者も違います。きっとその当時は、必要なアプローチだったのでしょう。

しかし。解釈文(※上記[『修証義』本文はこちら]から解釈文が閲覧できます)においてはこのあたりの意図的な荘厳さを、あえて逐一語釈をしていません。逐一語釈をしないことで、本質的な部分にのみ注意が向きます。
だからこの判断は、とても素晴らしい。

底本テキストとしてとても出来のいい『修証義』なのですから、それが今現在でもきちんと「在る」ために、「在る」ことに価値を生み出すために、バランスよく届けてくれているのだな、と感じ入った次第です。

つまりは、仏教もお坊さんも、ちゃんと動いているのだな、と。
仏法僧の「法」について書かれている節なのに、「僧」に想いを馳せることとなりました。そんな、興味深い節なのでした。

 

■禅僧がライターへこう応えました

『修証義』は、①仏教徒としての信仰に目覚め②仏教徒としての生活を送る、ということを大きな柱としています。『修証義』全5章のうち、1章は総論に当り、①については2・3章、②については4・5章で説かれています。

さて、本節は3章の中の一部分です。本節を含む①の部分では、特に、三宝(仏・仏の教え・仏を信奉する人たち)に対し帰依するということが具体的なありかたとして提示されます。そして、そのことによって、仏教徒として生きるという自覚が芽生え、迷うことなく仏教徒としての道を歩むことが出来ると示されています。

そこで、本節の主旨に立ち戻ると、ロイさんが冒頭に言われているように、三宝を心の支えとすることの大切さが説かれています。私たちは、生きる上で、様ざまなものに救いを求め、時に、神仏に祈りを捧げます。仏教が示す生き方が、真の意味で自分が目指す生き方だと確信が持てたとき安らぎと喜びが生まれるでしょう。そこから三宝を心の支えにしようとする気持ちが生まれるのです。仏と自己の共鳴、それを「感応道交」と本節では表現しています。ロイさんは「シナジー効果」と喩えられましたが、「仏の教えに出会えた喜び」が根底にあることを併せてご理解いただければ幸いです。

以上を考えると、仏の教えに出会い、帰依することの素晴らしさが説かれるこの節は、いわば「前半のクライマックス」と言って良いくらい重要な部分であることがわかります。そのくらい大切なところですので、ロイさんが「意図的な荘厳さ」と呼ばれるような、念入りな強調表現が施されているのかも知れません。

ビジネス英語風に言えば、仏教徒として生きよう、とコミットすることの大切さが説かれる本節は、『修証義』の中でも重要な箇所と言えるでしょう。ロイさんがおっしゃる少し大げさな言い回しの中に、仏法僧に帰依し、信じていくことの大切さを見出して頂ければ幸いです。

 

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『修証義』についての詳しい説明はこちら


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