迷える中年ライターが『修証義』を書き写してみた ~曹洞宗のお経を一般人が読むと?(第4章・第21節)~


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初めて触れる『修証義しゅしょうぎ』の本文を読み、鉛筆を手に書き写し、また現代語訳を読む中で感じた事を率直に語っていきます。第21回は、第4章「発願利生」の第21節について。

honbun第21節 「布施というは貪らざるなり」

■ライターはこう思いました

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ライター 渡辺ロイさん

かの大数学者アンリ・ポアンカレはこんなことを言っています。
「数学とは、異なった事柄に同じ名前を与える技術である」
意味としては、世の中にある森羅万象について共通項を見出し、類似に名称を与え、不変の定理を見出す、それが数学であるということです。あるいは、それが数学的なものの考え方だ、そう言っているのです。

なんでこんな偉大な人の言葉を引用したかというと、ポアンカレが哲学的な事柄についても大いに研究し、哲学家としても評価を受けている人だからです。
つまり、数学を語っていながらも、哲学からのアプローチとしても意味深い言葉だといえます。
およそ全ての事柄は、違った役割や見た目をしていても、どこかに通底する定義なり定理なりが存在している。少なくとも、存在しているのではないかと考えることには意味があるはずなのです。

なんだなんだ、「修証義」はどうしたとおっしゃるご同輩、お待たせしました。
今節は冒頭で、多くの人々を救うための方法が、4つの項目として提示されています。
個人差や時代背景など、様々な状況下において、そんな単純に4つに分けてしまっていいのか。そう感じるかもしれません。
ここまで、仏教の哲学的側面に大いに心を動かされてきた中年ライターなので、大きな問題提示(衆生を利益す/多くの人を救う)をさっくりと「大事なのはこれとこれとこれ!」みたいに噛み砕く、仏教的な整理方法にしびれるのです。しびれてしまったので、哲学とか数学とかを引き合いに出したくなってしまったのです。

今節では、4つのうちのひとつ、「布施」について語られています。
内容としては、施すという行為はあくまでも代償行為を求めない利他行為であり、見返りを求めないこと、そして教育を施すこともまた布施だ、としています。
そう考えることが、大きな結果につながるというわけです。
ここまで修証義で語られてきたことを、再度言い直しているために、わかりやすいかと思います。
ここからスタートして、続く「愛語」「利行」「同事」という言葉が、どう世界を分割していくのか、大いに楽しみです。
布施はその量の多寡にかかわらないという記述があるのですが、原文が「其物の軽きを嫌そのもの  かろ     きらわず」という書かれ方をしていて、いらぬ遠慮をやんわりとたしなめているようで、個人的にはとても好きな箇所となりました。

ちなみに、数学では「無限の向こう側であれば、この解が存在する」というような定理があると聞きます。無限は無限ですから、その向こう側がどうなっているかなんて誰にもわかりません。でも、そういう考え方をすると、今現在の「この世界」でとても有効的に活用できる定理があるのです。
そういう定理があって実際に役立つのであれば、無限の向こう側がどうなっているのか、とかは実はあまり重要ではないのかもしれません。
来世には、というような言い方の多い仏教関連の哲学指南ですが、そこらへんはこういう数学的な考え方と同じかもしれません。
だからこそ、ポアンカレは数学者であり、哲学者であるのでしょう。

今回は脱線したまま終わるように思えますが、「修証義」全体をひとつの重要な定理だと捉えるなら、こういう数学的、哲学的色合いに思いを馳せてもいいのではないでしょうか。

 

■禅僧がライターへこう応えました

数学や哲学に関連付けての今回のコラムとても興味深く拝読しました。

お釈迦さまにこのような逸話があります。ある人がお釈迦さまに質問をしました。
「お釈迦さま、来世とはどのような世界でしょうか?魂とはどのようなものでしょうか?」
するとお釈迦さまは、このようにおっしゃいます。
「私はそのような質問には答えない」
つまり、考えても仕方のないことをいくら考えても仕方がない、「いま、ここ」をいかに生きるかが問われるのだ、とお釈迦さまはおっしゃっているのです。言い換えれば、「いま」が充実していれば来世や魂のことなど気にならなくなるということなのでしょう。

人としていかに充実した人生を送るか。これは『修証義』のテーマにもつながります。特に第4章は他者を救うことを自らの喜びとする菩薩の生き方について説かれます。そして、その具体的な実践方法、ロイさんの言い方に近づけるなら「気持ち良く生きるための4つの定理」が本節で提示される布施、愛語、利行、同事の4つです(四摂法と呼びます)。

そのうち、本節では「布施」が取り上げられます。自分が持っているものを少しでも他人のために使ってもらう、たとえ些細であっても社会に役立つことをする。このような「思いやり」「分かち合い」の精神が布施の基本的な考え方です。そこには「見返り」なんてありません。というよりも、「誰かの役に立てた」というすがすがしさを感じれば見返りなんてちっぽけなものだ、ということかもしれません。

これから四摂法についての学びが始まります。『修証義』が提示する「幸せの4つの法則」を是非味わってみてください。

 

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