【連続インタビュー】仏教の社会的役割を捉え直す⑧

2019.08.19

前回から、川又俊則先生(鈴鹿大学副学長、こども教育学部学部長、教授、社会学)にお話をうかがっています。人口減少化時代とともに寺院も減少していくと言われ、ともすると悲観的になりがちなところがありますが、「人生100年時代」、仏教者は〈老い〉の世代に対して前向きな生き方や学び方を提案していくときなのだと、前回は希望を感じるお話をいただきました。今回は、曹洞宗宗勢総合調査や曹洞宗檀信徒意識調査に関わられた知見を踏まえて、そこから見えてきたものについてお話をうかがいます。

聞き手・構成 (公社)シャンティ国際ボランティア会専門アドバイザー・曹洞宗総合研究センター講師 大菅俊幸

川又俊則氏に聞く(第2回)

●宗勢総合調査について
――先生は多くの教団の調査に携わっておられるので、そこに見られる共通の課題とか、特徴などについてうかがいたいと思います。まずは曹洞宗の宗勢総合調査から見えてきたことについて聞かせていただけますでしょうか。
川又 私は、2005年と2015年の2回の曹洞宗宗勢総合調査、および、その間に行った2012年の曹洞宗檀信徒意識調査に関わらせていただきました。
他の委員の方々と一緒に質問紙を作成し、1万件を超える回答を得て、それを分析した報告書を刊行しました。社会学者として貴重な経験をさせていただき、大いに感謝いたしております。
この最新調査の内容から申し上げたいことは4点ほどあります。
まず1点目ですが、檀信徒数について、檀家数が467万人、信徒数が53万人、合計520万人と推計しました。曹洞宗寺院は、大都市にも過疎化が進む地域にも多く分布し、全国規模で展開している大きな宗派ですから、日本の寺院の将来像を考えるとき、この曹洞宗の現状や動向を把握することは大事だと考えています。

川又俊則先生

2点目です。この調査結果でポイントだと思ったのが、住職以外の僧侶の減少という現実です。徒弟は40年前の半数以下です。徒弟と副住職合わせて5,300人。今から40年前は9,000人以上いましたから、将来住職になる方々が、半分に減っていることを意味します。それらの方々が全員、住職になるわけでないとすれば、将来の住職をどうやって確保するかを考えねばならないでしょう。
住職は、調査ごとに平均年齢が上がっており、年齢構成でみても高齢化を指摘できます。それは同時に、副住職の方々が高齢化していることも意味します。本来、もっと早く住職にならなければならない人たちが、ずっと副住職のままでいる、という現状は、人材の新陳代謝という点から考えれば、必ずしも好ましいとは言えないように思います。
次に3点目です。「随喜」と「用僧」についても具体的な回数を調べました。すると、随喜は年平均13回、用僧も年平均10回程度という結果でした。用僧がゼロというケースも、27.9パーセントです。つまり、これまで葬儀などに複数の僧侶が携わっていたのが、1人だけになってきている、という傾向が、はっきり示されたと思います。
これまでは、地域のお寺がお互いに助け合い、住職どうし、僧侶どうしの協力・連携のなかで、同時に切磋琢磨してきたのだと思います。現在は、そういう面が稀薄になってきているのかもしれません。随喜や用僧が減る背景には、檀信徒側の経済上の要因もあるかもしれませんが、僧侶どうしのつながりが弱くなり、その結果、全体的に僧侶の力自体が徐々に失われつつあるかもしれないと思わせる結果でした。
4点目は、兼務についてです。兼務寺院は1995年頃から増加傾向にありましたが、今回の調査でも増え、寺院全体の2割を超えています。また、兼務寺院から給料を得ている人は、兼務寺院で働いている人の2割しかいないとわかりました。ということは、本務寺院の仕事が中心で、兼務寺院の仕事は奉仕として務めているのが現状なのです。忙しさは増え、その分の見返りがなく、当該の僧侶の方にとって厳しい状況だということが、今回の調査からわかりました。
その他、着眼すべき点は様々ありますが、私がとくに取り上げたいと思ったのはこの4点です。

●他宗との比較から見えてきたもの
――先生は他宗派の調査と曹洞宗の調査を比較した論文も書かれていますが、他宗と比較するとどんなことが見えてきたのでしょうか。

川又 他の宗派とくらべて見えてきたものについて、様々思うことがあるのですが、3点ほど共通の課題を述べたいと思います。
1点目は寺院格差です。たとえば浄土真宗本願寺派では、法人収入を3区分した分析をしています。今回の曹洞宗の報告書では、それを参考に、低収入寺院、中収入寺院、高収入寺院と、3つに分けて考察しました。すると、高収入寺院と低収入寺院の二極化という現象が見えてきました。
とくに、低収入寺院のうち、収入ゼロや10万円以下というお寺もあるのですが、そういうところでは、「寺院護持を続けてほしくない」「わからない」と考えている僧侶が4割ほどいました。お寺を維持し、守り続けるのが負担になっている現実が浮き彫りになったのです。高収入寺院のお寺は、後継者に対する意識が高く、逆に、低収入寺院では、経済的に苦しく、自分と同じ苦労をさせたくない思いもあり、次世代への継承に不安を感じているようです。お寺の経済状況は、継承意識の違いにもつながることがわかります。多くの方々にとって、予想されていたことかもしれませんが、こうして、結果が数値として示された意義は大きいと思います。このようなデータは、他宗派の調査でも表れており、高収入寺院と低収入寺院の二極化という現象は、日本仏教全体の傾向と見なせると思います。
2点目は、後継者です。調査の結果、現在の住職の方々は、前住職の実子が6割、前住職と親族関係にある割合が8割でした。また、お寺の運営の継続を希望する方々に、後継予定者は誰かたずねると、過半数は実子という回答でした。後継予定者がいない方には、その理由を尋ねましたが、「弟子がいないから」「子がいないから」という回答がそれぞれ3割でした。つまり、曹洞宗の現状は、住職は実子による継承が中心だと確認できます。しかし、後継者は実子に限りません。僧侶になってお寺の仕事をしたいという在家の人たちもいますから、そういう人たちに門戸を開放する可能性を検討する時期ではないでしょうか。もちろん、住職になる道としては、師匠と弟子の関係があるわけで、在家出身者の活用は、個別寺院では対応しきれるものではなく、仏教界全体の大きな課題だと思います。
3点目としては、明らかに檀徒数は減少し、寺檀関係の縮小化の時代に入っていることです。
かつては檀信徒の数として一軒に4、5人を想定できましたが、今では、三世代世帯が少なくなり、独居の
高齢者や結婚しない人も増えています。そう考えると、檀家数を維持できても、檀徒数は減っているわけです。
檀徒数と寺院の法人収入は大いに関係します。寺檀関係が縮小化すれば、やがて、寺院の存続が困難になると想像されます。
もう1つ申し上げるなら、今回の調査で「檀家さんはどれぐらいの範囲におられますか」と質問しましたが、寺院の周辺、近隣の地域に居住している方が多いという結果でした。農村社会学者の徳野貞雄先生(熊本大学名誉教授)は、地域に残る親と他出した子や孫との関係について、「T型集落点検」という手法で確認しています。すると、高齢者を中心とした世代が地域に残り、若年世代が流失していても、近隣・近距離に住んでいる子どもたちとの間で、相互扶助が行われていることがわかりました。お寺と檀家の関係は、近隣以外に、菩提寺から地理的に遠方に住んでいる人たちも含めて考えることができるかもしれません。
しかし、遠方にいる檀信徒の中で、お寺やお墓などにほとんど来ないような人たちは、やがて、そのお寺との関係は薄くなっていくのではないでしょうか。 たしかに、現在、遠方に住み、親が熱心に関わるお寺を何らかの形で支える人も、檀信徒と見なせるかもしれません。しかし、地方にいる高齢の父親、母親が亡くなったととき、東京にいる子どもがどうするかと言えば、それを機会に離檀する可能性が低くはないのではないでしょうか。そう考えると、現状は一見大丈夫だと思われていても、実は、次世代へ続くかどうかは、安穏とできる状況ではないと思うのです。
檀信徒は他地域へ移動しても、お寺自体は移動しませんから、そのなかでどのように対応していくかは、仏教界共通のことでしょう。

大菅俊幸氏

――今、「寺院格差」「後継者の問題」「寺檀関係の縮小化」という3つの点を指摘されたわけですが、これらは曹洞宗だけではなく、日本仏教全体に共通した課題だということですね。
川又 他の宗派で行われた調査結果をみても、皆で解決すべきことだと思っています。

●檀信徒意識調査から見えてきたもの
――なかなか厳しい現実が見えてきました。その一方で、僧侶や寺院の側だけではなく、それを支えている檀信徒の側がどんな気持ちでいるのかを知ることもとても大事ですね。先生は曹洞宗檀信徒意識調査にも関わられたそうですが、そこから見えてきたものについてはいかがですか。
川又 はい。2012年に実施された曹洞宗檀信徒意識調査に、私も委員として関わらせていただきました。そこで気づいたことを中心にお話しします。
まず、そもそも今までの宗勢総合調査は、主に僧侶の方々を対象に、10年ごとに全数調査として実施してきたわけですが、寺院や僧侶を支えている檀信徒の皆さんは、実際にどういう意識でいるのかを調査する必要があるということから、檀信徒意識調査が行われることになりました。
ご住職を通じてお願いした調査ですから、お寺に親近感をもっておられる人も多いでしょう。しかし、なかには自由記述欄で辛辣なことを書いていた人もいました。対象となった20歳代から80歳代までの方々の回答は、日本全体の宗教意識・行動と大きくズレたものではないと思っています。
その結果をみると、まず宗教行動として、先祖供養のために手を合わせて祈っている、と答えた人たちが約8割いらっしゃいました。しかし、坐禅などの修行をしている、という人たちは1割未満に過ぎません。それから、どんなときに菩提寺を訪問するのかというと、葬儀や法事の時に頼みに行くとき、という人たちが8割。葬儀や法事に参加するとき、という人たちが7割。寺の行事や儀礼に参加するとき、そしてお墓参りのとき、がそれぞれ6割。つまり、お寺は死者供養の場と理解されていることが明らかになりました。多くの檀信徒の方々が実感されている、曹洞宗との関わり方ということなのでしょう。
申し上げるまでもなく、曹洞宗は坐禅を中心とした教義を展開しています。当然、僧侶の方はそれを強く意識していらっしゃるし、檀信徒の方々もそれはご存知のはずです。しかし、先祖供養を中軸とした運営が現実だということが、この調査でも示されたと思います。僧侶と檀信徒との関わりにおいて、先祖供養を無視できないのは、日本仏教全体の実態でしょう。
逆にいうと、葬儀や法事、年中行事、お墓があるからお寺に行く、という人がたくさんいるわけですから、僧侶という立場で、その事実を前向きに認識して、檀信徒としての関係をしっかりつないでいくことが大事なのです。
私はキリスト教の教会調査も行っています。(キリスト教の)教会とお寺との決定的な違いは、人々がどのくらい教会やお寺に来ているかということです。キリスト教の場合、信徒の方々は、毎週、必ず教会の礼拝に行きますから、1年間に52回は教会に通っていることになります。熱心な人たちは、平日に行われる祈禱会や聖書研究会などにも出かけるので、年間、100回以上教会に通うこともあります。
それに対し、仏教のお寺の場合、熱心な檀家の方は、年間に何度もお寺に行かれますが、一般の檀家の方々は、自らが関係する法要や年中行事などで年に数回行くか、あるいはそういう機会にさえ行かない方々もいらっしゃるかもしれません。
そう考えると、色々な工夫をして人が集まる努力をされているお寺は、何かと檀家さんが足を運び、お寺が維持されていくと思うのですが、そうでないところは、しだいに檀家さんの足が遠のき、気持ちも遠ざかって運営が厳しくなっていくと推察されます。もちろんご住職は忙しいので、わかっていてもそういう余裕はないという現実もあるとは思います。でも、関わり方という点で考えれば、教会に対する信徒さんの意識とお寺に対する檀家さんの意識は、相当に違っているだろうと思います。
この調査を行った2012年の時点で、このようなことを考えました。

――2012年というと、弔いの多様化がマスコミなどで言われるようになって、「墓じまい」とか「お墓はいらない」という言葉が出始めたころですね。「手元供養」ということも出てきたころです。
川又 そうですね。当時、マスコミで取り上げられても、それらは一気に広まるわけでない、と思われていたかもしれません。それから6年たった2018年現在、地方や都市部での違いや、お寺それぞれの事情もあるでしょうが、全体的に見れば、お寺離れや墓じまいなどは、徐々に広がっているように思われます。2015年の宗勢総合調査でも、五割近くのお寺では、過去10年間で「1~10件」の「墓じまい」があったと答えています。また、檀信徒調査で「お寺を守ることが檀家のつとめである」ということを、6割以上の人が「そう思う」と答えています。その意識は、現在も変わっていないのではないかと考えられます。ただ、そのように前向きに答えたのは、現在お寺を支えている高齢者の方々です。若い世代の方々は、そこまでお寺の付き合いがない人たちなので、檀信徒調査でも、様々な問題に対して、疑問や意見を述べています。社会に開かれる場所、悩み苦しむ生者に対応することなども期待されているお寺にとって、今後、若い世代の気持ちをどう惹きつけるかが大きな課題だろうと思います。

――なるほど。前回のお話では、「人生100年時代」といわれる今、〈老い〉の世代に対して、仏教者は新しい生き方を提案していくことが求められているのではないか、とご指摘いただきましたが、その一方で、たしかに未来のことを考えると、〈若い世代〉にいかに仏教やお寺に関心を向けてもらうか、真剣に考えることが必要ですね。
そのことも踏まえて、次回は、この時代にお寺や僧侶が果たすべき役割について、具体的なご提言やご提案をいただければと思います。 

(次回は8月30日配信予定)

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