【人権フォーラム】新型コロナウイルス感染症があたえた影響 ~2023年までを振り返る~

2024.01.10

曹洞宗では新型コロナウイルス感染症に関していくつかの対応を行ってきました。例えば「新型コロナウイルス感染症に対する各種法要執行の基本指針」(2020年6月25日付)や「教区人権学習会開催におけるガイドライン」(2021年5月13日付)などです。また、【人権フォーラム】2020年6月号「新型コロナウイルス感染症の世界的流行によせて~不安と差別心理~」、2021年9月号「コロナ禍の人権学習」と題して、新型コロナウイルス感染症に対してどう対応すべきか、そしてコロナ禍における人権学習の状況についてご報告させていただきました。

今回はそれらの報告を踏まえまして、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)があたえた影響と題し、これまでを振り返ります。

日常生活への影響

2020(令和2)年3月11日に世界保健機関(WHO)より世界的流行(パンデミック)が宣言され、同年4月7日に日本政府より東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に、16日より全47都道府県に緊急事態宣言が発令されました。

この宣言は同年5月25日に全都道府県で解除されましたが、一部都府県では多いところで四回もの緊急事態宣言が発令されました。また、各都道府県知事が要請するまん延防止等重点措置も2021年~2022年にかけて各都道府県で実施されました。

これらの影響は大きく、新型コロナ対策としては人と人との距離を取るソーシャルディスタンスや、飲食店は酒類の提供の自粛・時短営業、娯楽施設やスポーツ施設、ショッピングモールなど人の集まる施設は休業し、会社の業務や学校の授業も在宅・オンライン等で行う要請など、この3年から4年の間で新型コロナは人々の生活を大きく変化させました。

葬儀の場においても、マスク着用の徹底、手指の消毒、換気を行う、三密(密閉・密集・密接)の回避などの基本的な感染対策を取りつつ、葬儀を執り行うようになりました。それらの対策は、大切な方の最期の瞬間に側に居られない状況を生み出しました。弔いの場は人が集う場でもありますから、行動制限が長期間に及ぶことで、人が集まって故人を偲ぶことすら難しくなってしまったのです。

命に関わる感染症に対して不安や恐怖に駆られるのは仕方のないことかもしれません。もし自分が感染してしまったら、そして家族や職場の人を感染させてしまうかもしれないといった不安や恐怖は、確実に存在していました。

新型コロナ流行当初から、感染した人、また医療従事者及びその家族に対して、誤った偏見や不当な差別的取り扱いの一例として、心ない誹謗中傷が行われているという報道もありました。しかし、衛生観念の発達していない中世の時代であるならばまだしも、現代は義務教育で衛生管理を学びおり、感染症対策の基本を多くの人が理解しているはずの時代です。適切な医療行為と不当な差別や人権侵害との違いは明白だったはずです。

しかし、私たちの社会は偏見や差別を止めることができず、多くの被害者を生み出しました。私たちは新たな感染症に見舞われても冷静な対応ができるよう、教訓としていかねばなりません。

研修会・会議への影響

新型コロナが流行していた期間、宗務庁も例外ではなく感染者が発生するなど影響は避けられませんでした。そのためマスクの着用徹底、検温、消毒スプレーの設置、時短勤務、在宅勤務の導入による出勤人数の調整などの対策が講じられました。新型コロナの流行に伴い、人権擁護推進本部が関わる研修会・会議の中止も相次ぎ、開催方法も変更を余儀なくされました。

その中で人が集まらずに済む方法として活用されたのがオンラインでの研修会や会議でした。対面を避け、在宅でも会議に参加でき、移動等による感染のリスクを軽減できるという点で大きな役割を果たしました。オンラインの学習の方法として、皆が揃って学習するライブ形式だけでなく、講義を録画配信するサテライト形式も採り入れられました。人権本部でも出講していた僧堂人権学習は人権本部で作成した指導要領を用いて、各僧堂の人権担当者が講義を行うという形で実施し、各宗務所で行われる宗務所人権学習もオンライン学習を実施、また各自での自己研修など工夫しながらの学習が続きました。

オンラインでの学習や会議などは時間、空間を超えることが可能となり、その利便性には大いに魅力があります。しかし、人と人が会うことをあきらめないこともまた大切にすべきことのひとつでありました。新型コロナへの対処法が確立されるに従って、研修会・会議の開催方法も状況に合わせ、できる最善を模索しながら進めることとなりました。

人権擁護推進主事研修会(以下、主事研)は新型コロナ流行中、中止やオンライン開催が続きましたが、2022年度第1回の主事研より宗務庁での対面とオンライン併用での開催とし、第2回の主事研より宗務庁での対面開催、そして今年度第1回の主事研では現地研修として、長野県にある差別戒名墓石についての学習や大本山永平寺での被差別戒名物故者追善供養法会に参列しております。また宗務庁で行われる会議もオンライン開催がほとんどでしたが対面開催がほとんどになりつつあります。

コロナ禍においてオンライン学習が普及したことで、会議等がすべて対面だけでなくオンラインという選択肢が増えたこと、また、今回のような感染症流行や災害時の緊急事態が起きた時、インターネット環境が整えば対応しやすくなるといったことは、コロナ禍によって生まれた一つの果実とも言えるのではないでしょうか。

おわりに

新型コロナは2023(令和5)年5月8日に感染症法の分類で、結核やSARSが分類される「2類感染症」相当から季節性インフルエンザが分類される「5類感染症」に移行したことで、法律に基づく外出自粛もなくなりました。感染対策に関しては個人や事業者の判断に委ねられ、マスク着用についても先行して3月13日から個人の判断とされています。

個人に委ねられたとはいえ、手洗いうがいの励行の継続、病院等の医療機関ではマスクは着用するなど、基本的な感染対策の実施、周囲への配慮は変わらずに必要になります。

今後、外出自粛の制限がなくなったことによる一つの懸念として、持病や障害などでマスク着用ができない、またワクチンが接種できない人がいることを考慮せず、マスク着用の有無、ワクチン接種の有無で不当な偏見に基づいた差別が行われることがあります。5類に移行して約8ヵ月が経ち、新型コロナを気にしなくなったいまだからこそ、公的機関などが発表しているような、誰の責任において作成されたのかが公開されている情報をいくつか比較しながら行動していくことが求められるのではないでしょうか。

人権擁護推進本部 記