【連載レポート】人口減少に直面する寺院 ①

2018.06.15

【連載レポート】人口減少に直面する寺院
 ~追加調査:奥能登の寺院活動を見聞して~ 第1回

曹洞宗広報委員 平子泰弘

 はじめに
過疎問題の現状把握や対策を模索するために実施された、超宗派による「能登地域寺院調査」の調査研究を受け、曹洞宗においても独自に現地の追加調査を行うべく、能登半島の先端に近い石川県珠洲市地域のご寺院さまにお話を伺いました。
今回の聞き取りの概要は、下記のとおりです。

日時:平成30年3月14日~16日
場所:珠洲市 曹洞宗寺院1ヶ寺、臨済宗国泰寺派寺院1ヶ寺、日蓮宗寺院1ヶ寺

以上の3ヶ寺にお願いして、訪問させていただきました。折良く3月15日には月遅れの涅槃会法要がありましたので、2ヶ寺において法要を見学させていただき、檀信徒の様子や教化活動の実態を見学させていただきました。

珠洲市の現在の人口は1万人を切る勢いで減少しつつあり、2035年予測ではおよそ6,000人にまで減少するとの報告が出され、県内でも減少率の高い地域になります。
珠洲市を含め「奥能登」と呼ばれるこの地域は、交通が不便だったこともあり、2003年に、のと里山空港の開港、のと里山海道・珠洲道路などの整備も進められ、東京や金沢・富山とのアクセスが良くなりました。今後は人口減少に対する地域活性策が課題とされます。

この地域の寺院の運営状況については、その多くが兼職することで生活を安定させている状況がうかがわれます。珠洲市地域の宗門教区においては、全12ヶ寺中、寺院の法務のみで生活している寺院は2ヶ寺のみです。それ以外の住職・副住職のほとんどは、教員や福祉施設、公務員、地元企業などに就業しています。本務寺院と兼務寺院を共に維持することで生活している寺院もあるようですが、この地域の寺院はいずれも檀信徒数が相対的に少ない寺院がほとんどであり、1つの寺院だけでの安定的な運営は難しいのが現状です。それは同地域の他宗寺院においても同様で、今回お世話になった日蓮宗寺院のご住職は元教員、国泰寺派のご住職は宗派本山の布教師等の任に就かれていました。


 地域の人びとに親しまれる涅槃会法要

日本海側の雪の多い地域においては、月遅れの涅槃会法要が3月15日頃に営まれ、春彼岸会の供養と併修する寺院も多く見られます。能登地域の多くの寺院においても、3月15日を中心に営まれる寺院が多いようです。
(真宗寺院においては三仏忌を行わないことから、真宗以外の寺院での開催となると、大谷派が多くを占めるこの地域では涅槃会の認知度が低い位置づけになります)     

今回訪問した寺院では、2ヶ寺が15日(午前と午後)、もう1ヶ寺は彼岸会の供養の際に併修していました。15日に営む2ヶ寺は、道路を挟んで立地しています。同じ町内での開催は、それぞれの檀信徒ばかりでなく地域の住民にも浸透しており、午前・午後と両方の法要に参詣する人々が多いとの話でした。また年間通して参拝者数が最も多い法要でもあるそうです。
その理由は「だんごまき」と呼ばれる仏事で、涅槃団子が最後にまかれ、それを皆で競って拾いあうことにあります。2ヶ寺の法要には60~80名ほどの参拝者がみられました。そのうち両方の法要に参加されている方は2割ほどいたようでした。参加者の多くは中高年層から高齢者層の女性がほとんどで、男性は数名、子どもも数名いました。

両寺院では、涅槃図を前にして読経・儀礼・法話があり、参加者皆が待ち望む「だんごまき」は終盤のクライマックスに行われました。指先大に丸められ、赤・黄・緑・白と色とりどりのお団子は、さまざまな宗教的効用があるものとして受け取られています。食べることで身体に良いだけでなく、山に行くときのお守りであり、海にまけば豊漁となり、身につけるお守りとして人々に利用されているそうです。こうした宗教性が今にも生きていて、地域の人びとを多く集める法要として継続されています。


 法要継続への不安感
午前中の法要では、行事終了後に参加者全員にお膳が用意されており、本堂で車座になってお斎をいただく習慣が残っています。この日も70個以上のお膳がお手伝いの女性たちによって朝から準備されていました。このお膳(お食事)を振る舞うことは「お講」と呼ばれ、各地区の檀信徒が担当して調理・配膳が行われます。涅槃会だけでなく年5~6回ある法要の際には、こうしたお講が機能しています。七尾市の調査では、お講の風習は「なくなりつつある」、「お弁当になった」など、継続が難しくなっている様子でしたが、珠洲においても「いつまで続けられるだろうか?」という継続を危ぶむ声がありました。その背景には、各地区からお手伝いをお願いしても、仕事等で参加が難しいなどの事情があるようでした。

参加者数においても、以前は100名以上の参加があり、多いときで7斗の米粉を使って団子を用意し、本堂の屋根の上からまかれたといいます。門前には露店が立って賑やかだったとの昔話もありました。しかし、地域の人口減少により参加者も今後減少していくことが考えられ、お膳の用意などにあたる人々の確保も難しくなることが予想されます。各寺院では年間でお講の回数を減らすなど、状況に応じた対応が見られますが、七尾市のようにこれまで通りの実施が難しくなることも今後考えられます。


 檀信徒から次世代への期待感を伺う
曹洞宗寺院にて法要後に、総代さん方にお話をうかがうことが出来ました。
聞き取りでは「現状では従来通りに実施されている寺院行事が、次の世代や子どもの世代に移っていく時に、これまで通り維持されていくでしょうか?」と質問をさせていただきました。そのお答えからいくつか意見を紹介します。現在、総代や世話人を務めている60歳代以上は、親からお寺との付き合いを継承してきたし、地域の人数的にも大丈夫だと感じる。しかし子ども世代は、多くがこの地域に住んでいないことから、伝承できていないし、帰郷することもほとんど無くなっている、との意見を聞きました。さらに、「お寺との接点を持たせるチャンスが無く、自分たちの葬儀後の供養はどうなるのだろう?」と危ぶむ声もありました。

そのような中で今後への可能性として、年回法要の実施の方法などについて、これまでの負担の大きい形から、より依頼しやすい形を提案するなど、考えてみてはどうかとの意見も話し合いの中で生まれてきました。そして、「こうした問題についてこれまで語り合ったことも皆無だったので、今後は話し合いの場を持っていきたい」との心強いご意見もありました。

第2回に続く