【シャンティ国際ボランティア会(SVA)だより】タイ・カンボジア国境紛争とカンボジアの仏教
カンボジアは全人口約1700万人のうち、96%が上座部仏教を信仰し、仏教を国教とする仏教国です。 紀元前後ごろにカンボジアに仏教が伝来してから2000年、その間に仏教はカンボジアの社会に深く浸透し「カンボジア人であることは仏教徒である」といわれるほど人々の仏教に対する信仰心は篤く、仏教はカンボジアの精神文化の基盤となっています。

カンボジア人は生まれてから死ぬまで仏教を支えにしていると言われています。仏教は宗教として人々の精神的な支えとなっているのはもちろんのことですが、社会の中のさまざまな活動においても必要不可欠の重要な役割を果たしています。人々はお寺を建立し、信仰のためだけではなく、社会文化センターとしても利用しています。
お寺は人々が仏陀の教えを学習し、平静心、愛情、同情心、また他人の幸せを喜ぶ心を伝えるところです。仏教徒にとってはお寺にお参りし、祭儀を行うことは自分の祖先に恩返しをするためであり、自国の文化、文明を学び、保持して行くためでもあります。
またお寺は、拠り所のない老人、孤児、困難に直面している人々を助けるところでもあります。僧侶が老人の世話をし、拠り所のない子どもたちの面倒を見て、教育の機会を与えています。お寺は、周辺の住民に道徳、文化、文学、職業訓練などの教育を行うところでもあります。古くからカンボジアでは、すべての学習はお寺で行われてきました。
時代が変わって、今では政府による学校教育をお寺の外に置くようになっても、僧侶は以前と同様に教育活動に協力しています。人々に学校建設への寄付や労働奉仕を呼びかけ、貧しい家庭の子どもたちに文具や奨学金を支援し、道徳の時間には仏教を教えています。最近では、僧侶が学校で瞑想(特にヴィパッサナー瞑想)を指導することも増えています。
このように寺院はいろいろな社会活動の基礎です。僧侶は教育者として、問題を抱えている人々を励まし、また家庭及び社会の問題の解決に貢献する役割を担っています。食料や保健衛生問題への取り組み、道路・橋などの社会基盤づくり、植林などの環境保護活動などを通して貧困を解消し、地域の住民の生活がより良くなるように人々を導いています。僧侶は、地域の社会開発のため、住民を指導し、人々の結びつきを強め、関係機関の協力を促進し、国家の再建・発展のために積極的に活躍しています。
ポル・ポト時代にカンボジアのほとんどすべての寺院が破壊され、多くの僧侶が殺されました。ポル・ポト時代が終わると、人々は心の奥深くに隠しておいた仏教への信仰心を取り戻し、協力し合ってお寺を再建し、破壊されたコミュニティを再建しました。僧侶を中心にして人々は団結し、きれいな飲料水の確保や、住民に呼びかけて農業をするための池や井戸を掘り、水路を引き、政府の力ではできないところや僻地の道を修理し、新しい道路を建設してきました。僧侶はまた、寺院の周辺や適切なところに苗木を育成し、植林活動に積極的に参加しています。
ある寺院では、青年、特に女性のために職業訓練教室を開設し、縫製、織物などの職業訓練も行っています。地域内の住民同士が助け合うことができるように僧侶は住民に呼びかけ、互助会を組織し、例えば米銀行、家畜銀行、貯金組合などを設立しています。
すべての活動を実施するにあたって、僧侶は住民からの信用を受けて行動します。そのため寺院とカンボジアの社会との関係は非常に強く、切り離すことのできないものとなっています。
寺院があればそこには人々が住み、学校、図書館、池、森など住民が拠り所とするところがあります。逆にカンボジア人が住んでいるところには必ずお寺があり、僧侶が居るのです。
カンボジア宗教省仏教研究所顧問・シャンティ国際ボランティア会専門アドバイザー 手束耕治
シャンティ国際ボランティア会
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