【シャンティ国際ボランティア会(SVA)だより】仏教とカンボジアの人々の心の復興~カンボジア事務所開設35年を振り返る③

2026.10.22
復刻した仏教書で学ぶ仏教学校の僧侶

カンボジアでは、1970年から約20年に及ぶ内戦によって、多くの学校や寺院が破壊され、教員、僧侶、知識人などの貴重な人材が失われました。とりわけポル・ポト政権下では、書物が焼かれ、教育や宗教が否定されたため、カンボジアの教育と文化は壊滅的な打撃を受けました。

SVAは、タイ国境のカンボジア難民キャンプで培った経験を生かし、1991年3月にプノンペン事務所を開設しました。出版活動を通じたカンボジアの教育文化の復興を支援するため、プノンペン市内のバントラバエク高校に日本カンボジア友好職業訓練所を建設し、若者への職業技術の提供、特に印刷技術の育成に力を注ぎ、1993年から本格的な印刷出版活動を開始しました。当時は、教科書や一般書籍が著しく不足しており、印刷所は書籍のほか、国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の広報資料なども印刷し、復興期の出版基盤を支える重要な役割を果たしました。

文化復興支援の中心となったのが、カンボジア文化の基層である仏教の再建です。ポル・ポト時代に寺院が破壊され、仏教書の多くが灰燼に帰しました。SVAは宗教省仏教研究所、全国の寺院などと協力し、仏教書、宗教文化図書を復刻しました。その数は数十万冊に達し、全国の寺院、仏教学校、図書館、関係機関へ配布されました。 さらに、仏教研究所の再建、職員や図書館員の研修、僧侶と地域開発に関するセミナーなども実施しました。これは単に建物や書物を取り戻すだけでなく、人々の心のよりどころと文化的な誇りを回復する取り組みでもありました。

また、1990年代初頭のカンボジアには、クメール語の子ども向け絵本がほとんどありませんでした。そこでSVAは、1993年から昔話や民話を題材に、カンボジア人の作家や画家と協力して絵本を制作し、翌年には国内初となる紙芝居の出版にも着手しました。これまでに絵本と紙芝居を合わせて約37万冊、170を超えるタイトルを出版し、全国の学校や図書館などに届けてきました。一冊の絵本は、子どもたちに「読む喜び」を伝えるだけでなく、想像力や思考力を育て、自国の言葉と文化を次の世代へ継承する役割も担っています。

そして、教育事業として1993年から移動図書館活動を開始しました。農村の小学校や幼稚園、都市周辺の貧困地域を巡回し、読み聞かせや紙芝居などを通じて、本に親しむ機会を提供しています。同時に、教員や図書館員に対する研修を重ね、各地域で読書活動を担う人材を育成してきました。学校図書館・図書室の建設と整備も全国に広がり、地域に根差した持続可能な読書環境が築かれています。

このほか、子どもたちが安全な環境で学べるよう、地域住民や教育行政と協力して303校の校舎・園舎を建設してきました。建設に際しては、住民も盛り土や植樹、維持管理などに参加し、学校を地域全体で支える仕組みを大切にしています。

また、コミュニティ・ラーニング・センターを通じて、学校教育を受ける機会の少なかった人々にも学びの場を提供してきました。2016年からは、幼稚園への就園率が低い農村部を対象に幼児教育事業を開始し、教員研修、教材開発、園舎や園庭の整備、保護者への啓発などを進めています。

内戦、和平、復興を経て、小学校就学率は大きく改善しました。しかし、中高校への進学・卒業率は依然として低く、教育の質、教員の能力、教材や施設の不足、都市と農村の教育格差など、多くの課題が残されています。

教育文化支援とは、物を届けて終わる活動ではありません。人を育て、地域の力を引き出し、学びを次の世代へつないでいく長い営みです。SVAはこれからも、カンボジアの人々と共に学びの種を蒔き続け、すべての子どもが安心して質の高い教育を受けられる社会の実現に向けて歩んでいきます。

シャンティ国際ボランティア会専門アドバイザー 手束耕治

シャンティ国際ボランティア会
〒160-0015 東京都新宿区大京町31 慈母会館2·3階