ソナエルプロジェクトの事例紹介 長野県検校庵の取り組み

2025.12.01

持続可能な社会と地域共生社会の実現を目指し、曹洞宗SDGs推進委員会では「ソナエルプロジェクト」を提案しています。各寺院に集まる功徳(供物や財施など)を地域にも回向することで、お寺と地域とが手を取り合い、持続可能な地域社会を目指す取り組みです。この企画の詳細については、『地域共生社会を目指す曹洞宗の取り組み―ソナエルプロジェクト』(令和7年『曹洞宗報』5月号)をご覧ください。

本記事では、プロジェクトのモニター募集に応募していただいた、長野県茅野市・検校庵副住職、藤田清隆さんの取り組みを紹介します。

 

一つの記事から始まった藤田さんの取り組み

地域の人々から「お検校さん」と親しまれている長野県茅野市の検校庵。その副住職を務める藤田さんの心が動いたのは、曹洞禅ネットで紹介された『曹洞宗の多様性と包摂を考える(取材報告)』(令和5年2月10日掲載)と題する、天台宗正光寺の取り組みを紹介する取材記事を読んだことがきっかけでした。

「誰でも無理なく社会貢献できる仕組みだと感じ、すぐに取り組みたいと思い、自分でも同じことができないかと準備を進めていました」と藤田さん。

ちょうどその頃、菩薩行の実践の一つとしてSDGsの理念を踏まえ、曹洞宗SDGs推進委員会が提案する「ソナエルプロジェクト」のモニター募集が始まり、藤田さんはモニター寺院として参画。地域に根差した活動をスタートさせました。

検校庵副住職の藤田清隆さん

地域の商店との出会い

最初に取り組んだのは「えこう米」。法要のお供物として、お寺が用意するお米を施主が購入してお供えし、法要が済んだのちに地元の社会福祉協議会(以下、社協という)に寄付するという活動です。

お米の仕入れ先となったのが、同市内にある入倉米穀店でした。入倉米穀店の店主である入倉一朗さんにお話を伺ったところ、「藤田さんからお話をいただいて、すぐに“それはいいことだ”と思いました。お米は誰にとっても欠かせないものだし、供養としても意味がある。しかも寄付という形で地域に還元できる。単なる商売ではなく、地域の循環に関わることができるのはとても嬉しいことでした」と語られました。

入倉さん自身、日ごろから地域の人々とのつながりを大切にしており、「お米はただの食料ではなく、人と人を結びつける媒介になる」という信念をお持ちです。阪神・淡路大震災のボランティア経験がある入倉さんは、地域防災の向上にも取り組んで来られ、これまでの活動が藤田さんの取り組みに共鳴し、協賛は即決だったとのことでした。

入倉米穀店店主の入倉一朗さん

「えこう米」から「えこうセット」へ

しかし、藤田さんが実際に社協への寄付を始めると、現場の声として「お米もありがたいが、実際にはおかずになる食品が足りない」という切実な声がありました。藤田さんはそれを受け止め、すぐに「えこう米」から発展した「えこうセット」を考案し、缶詰やレトルト食品を組み合わせたお供物を施主に提案したのです。

入倉さんは、「藤田さんは動きが早い。必要だと聞けばすぐに形にしてしまう。そういう人だからこそ、活動が続くのでしょう」と述べられています。

こうして「えこうセット」は、単なる食料の寄贈を超え、地域の声に応える柔軟な支援の形として広まっていきました。

 

防災仕様の「ソナエルセット」へ発展

その後、能登半島地震をはじめ、各地で災害が発生するたびに藤田さんの関心は「日常の食支援」から「非常時の備え」にも広がっていったそうです。

福島県出身で東日本大震災も経験した藤田さんは、「発災時に食料を買いに行っても手に入らない。だからこそ平時から備えることが大切です」と強調します。こうして、「えこうセット」は防災を意識した「ソナエルセット」へとさらに発展しました。「ソナエルセット」は栄養バランスや保存性、調理のしやすさを兼ね備えた食品の詰め合わせです。缶詰、レトルト食品、パスタ、スープなど3食3日分の食料と、調理に必要な水をひと箱にまとめたものとなっています。さらに、香典返しにも使いやすい価格帯として1日分の「ソナエルmini」も展開しています。

セット内容の考案には苦慮したそうですが、「被災時にも食事を楽しんでもらえるように、様々なメニューを採用しました。商品ごとに味やカロリーが違うので、組み合わせの調整が大変でした。生成AIにカロリー計算を頼もうとしたのですが、条件がうまく伝わらなくて、結局自分でやった方が早かった」と笑いながら語る藤田さん。

入倉さんもこの変化を歓迎し、「備蓄食品の需要はこれからもっと高まるでしょう。米屋としても、保存米や非常食の知識が役立ちますし、お寺と協力することで防災意識を広められるのはありがたいことです」といいます。

「ソナエルセット」の内容物

地域循環を生む仕組み

「ソナエルセット」には、地元商店の商品も積極的に組み込み、地域経済にも貢献しています。また、購入者には「賞味期限通知サービス」を提供しており、期限が近づくと案内を送付し、「食べる」か「寄付する」かを選べるようにしてあるとのこと。

藤田さんは、「5年後に通知を受けて“便利だった”“助かった”と思っていただければ、そのまま寄付に回してくださるかもしれません。そこから次の支援が生まれます。供養が防災備蓄や社会貢献につながる。それが理想形です」と、展望を語られました。

現在の購入者層は、70~80代の女性が中心なのだそうです。災害報道を目にして「自分も備えなければ」と考える人や、一人暮らしで非常食を確保したいという人が多いそうで、家族や自身の安心のために備えを急いでいる人から、お寺がお供物として提案しているソナエルセットが評価されたのではないかと捉えているそうです。

「ソナエルセット」のバックヤードストック

活動の成果と広がり

これまでに寄付された「えこう米」や「えこうセット」は、地元の社協を通じて、子ども食堂やひとり親家庭など、支援を必要とするところへ届けられています。規模としては決して大きくないものの、継続的な寄付の積み重ねにより、「お寺からの支援があることで安心できる」といった声も寄せられています。

また、地元商店にとっても「商品が地域福祉に生かされる」という実感が新しい価値となり、寺院と商店の協力関係を強める契機になったといいます。

入倉さんは「商売は商売で続けていかなきゃなりませんが、こういう活動があると、お店をやっていて良かったなって思えるんです。単に売って終わりじゃなくて、社会の役に立っている実感があるから、自然と“続けたい”と思えるんですよ」と手応えを語られました。

 

今後の展望

藤田さんは「ソナエルセット」のモデルが、全国に広がって欲しいと考えています。「仕組みはオープンにします。私と同じことを全国のお寺でやってくだされば、それだけで社会の備えは何倍にもなりますから」。そのように語る藤田さんは今後、デジタル技術の活用や自治体・企業との連携も視野に入れており、檀家や地域住民が互いに助け合える「共助共生のネットワーク」の構築を目標に、災害時にも孤立しない地域づくりを目指されています。(※藤田さん作成のチラシのデータはこちら

入倉さんからも、「お寺と地域商店が協力する形は、地方ならではの強み。こうした連携を増やしていきたい」と期待を寄せていました。

「ソナエルセット」の展望について話す藤田さん

おわりに

「寺院=供養や法要の場」という従来の枠を超え、地域の安心と安全を支える拠点へ。検校庵副住職 藤田清隆さんと入倉米穀店店主 入倉一朗さんへのインタビューを通して見えてきたのは、宗教者と地域商店が手を携え、持続可能な地域社会を築く新しいかたちでした。

供養のこころが防災へとつながり、安心を分かち合う輪として広がっていく。その静かな広がりこそ、宗門が目指す地域共生の姿なのかもしれないと感じる取材となりました。

曹洞宗SDGs推進委員会 記

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