地域共生社会を目指す曹洞宗の取り組み―ソナエルプロジェクト

2025.05.19

この記事では、持続可能な社会と、地域共生社会の実現のため、曹洞宗SDGs推進委員会が提案している、「ソナエルプロジェクト」を紹介します。寺院でのお供え物を地域社会への支援に繋げるこのプロジェクトは、仏教の慈悲の精神を現代社会で実践し、地域に安心と豊かな繋がりを広げることを目指しています。

 

曹洞宗とSDGs

曹洞宗がなぜSDGsに取り組むのか。それはSDGsの理念が、曹洞宗の教えと親和性を持っているからです。

曹洞宗の教えについては、曹洞宗の憲法ともいえる「曹洞宗宗憲しゅうけん」の第5条(教義)において、「宗門は、修証義しゅしょうぎ四大綱領しだいこうりょうに則り、禅戒一如ぜんかいいちにょ修証不二しゅしょうふに妙諦みょうたいを実践することを教義の大綱とする。」と定められています。修証義の四大綱領とは懺悔滅罪さんげめつざい受戒入位じゅかいにゅうい発願利生ほつがんりしょう行持報恩ぎょうじほうおんであり、私たちの信仰生活はその実践を柱としています。

教義の実践方針については、曹洞宗の代表である管長かんちょうが毎年度公布する「布教教化に関する告諭こくゆ(以下、「告諭」といいます。)」と、告諭に基づいて内局ないきょくが策定する、「布教教化方針」によって示されます。

1992(平成4)年度の告諭において、曹洞宗の三大スローガンである「人権の確立、平和の維持、環境の保護」が初めて示されました。現代社会における世界共通のテーマであり、以降、この三大スローガンと修証義の教えが告諭の重要な柱となっています。

2020(令和2)年度の布教教化方針から、それまで取り組んできた「禅の実践」「一仏両祖いちぶつりょうそへの帰依」「菩薩行ぼさつぎょうの実践」に加え、世界で取り組みが始まった「SDGs」を推進することとなりました。これは、誰一人として取り残されることのない、世代を超えて安心して過ごせる世界の構築という当時の告諭に基づくもので、2018年世界仏教徒会議においてもSDGsへの参画が採択されております。曹洞宗においては長い間「人権・平和・環境」のスローガンのもと、様ざまな取り組みがなされてきましたが、これらは多様な人権課題、人間同士の争い、自然環境の問題を有機的に理解し、包括的な解決をめざすSDGsの取り組みと、理念を同じくするものだと考えています。

宗門のSDGsへの取り組みは、2025(令和7)年度の現在に至るまで布教教化方針に示されています。

 

慈悲の実践として

管長は、2025(令和7)年度の告諭において、「お釈迦さまは縁起えんぎ理法りほうをさとられ、一切を正しく観察される智慧ちえと、他者との和合調和わごうちょうわ慈悲じひによって成ることを、身をもってお示しくださいました」とお諭しになっています。管長は、2025(令和7)年度の告諭において、管長は「お釈迦さまは縁起えんぎ理法りほうをさとられ、一切を正しく観察される智慧ちえと、他者との和合調和わごうちょうわ慈悲じひによって成ることを、身をもってお示しくださいました」とお諭しになっています。

仏教の根幹は智慧と慈悲であり、この二つは別々のものではなく、智慧は慈悲としてあらわれ、慈悲のはたらきは智慧に支えられています。これはお釈尊さまが教えを説き始めたときからの仏教の基本であり、一仏両祖の教えをいただく我々の在り方を示すものと言えます。

また、布教教化方針には、次の文言があります。

 

三、『修証義』「四大綱領」に基づく菩薩行の実践をすすめます。

私たちは、宗門の教義である『修証義』「四大綱領」に基づき、布施ふせ愛語あいご利行りぎょう同事どうじ四摂法ししょうぼうに代表される菩薩行の実践をすすめます。世界中の人びとの幸せと安寧を願い行動することが、自らを菩薩として成長させる大切な修行になること、更にはそれらが自他共どもの深い喜びと安心につながることを伝えていきます。

四、人と人とのつながりを大切にして、全ての人びとが救われる関係づくりをめざします。

私たちは、寺院を場とした教化活動にとどまらず、積極的に地域社会に働きかけることで、人びとの悲しみや苦悩に学び、寄り添い、支え合い、分断のない、心が通う温かな関係を築けるようつとめます。また、供養などの仏事が簡略化されがちな世情の中で、改めて、亡き人とともに生きる大切さを伝え、出来る限りのご供養が営めるよう力を尽くします。(以下略)

曹洞宗SDGs推進委員会では、曹洞宗宗憲に則り、管長のお諭しや布教教化方針等に鑑み、現代社会における慈悲の具体的展開として、ソナエルプロジェクトを提案しています。

 

ソナエルプロジェクトとは

寺院で行われる年回法要などでは、伝統的な供物として、果物や菓子などが供えられます。本来、供物は施主が故人の生前のありようなども考慮して用意するものですが、様々な事情から、「お寺で用意してほしい」と依頼される場合もあるでしょう。ソナエルプロジェクトでは、様々な法要での供物を「寄贈または備蓄を目的とした寺院指定の供え物セット(以下、「お供え物セット」といいます。)」とすることで、供養を通じた社会貢献の実践を目指します。

 

【具体的な手順】
・必要物品の選定
寄贈先は、地域の社会福祉協議会、児童養護施設、高齢者施設、困窮者支援団体など、支援を必要とする人々へ確実に届けられる組織を想定しています。可能であれば事前に寄贈先のニーズを把握し、喜ばれる品物を選ぶことが大切です。

・お供え物セットの作成
寺院側で、日持ちする食品(例:米、乾麺、缶詰、レトルト食品、菓子など)を中心とした供え物セットの内容を決定します。価格帯やサイズなども考慮します。

・施主への提案
供物用意の依頼があった際、施主に対し、お供え物セットでの供養を提案します。プロジェクトの趣旨、社会貢献に繋がる意義などを丁寧に説明し、理解と協力を求めます。パンフレットやウェブサイトなどを作成し、プロジェクトを広報することも有効です。

・供物の寄贈・備蓄施主から依頼のあったお供え物セットを寺院で準備し、法要後、地域の社会福祉協議会などに寄贈します。寺院で災害備蓄品として保管し、消費期限が近づいたものから順次寄贈することも可能です。

お供え物セットを地域の社会福祉協議会などに寄贈することで、困難な状況にある人々を支援することができます。故人へのお供えという宗教的行為が、他者への慈しみとなり、社会に慈悲の循環が生まれることは、供養の施主にも理解されやすいものと考えています。

「ほとけさま」へ供える(ソナエル)行為を通して施主は功徳を身に具える(ソナエル)。お供えされた供物が地域社会で循環していくことで、社会全体が安心を備える(ソナエル)。

私たちはこの取り組みを「ソナエルプロジェクト」と名付け、慈悲の循環が地域社会に広がることを願っております。

 

自然災害への備えにも

東日本大震災以降、災害発生時に寺院を一時避難所とする協定を地方自治体と結ぶ仏教会が増えています。寺院が独自に飲食物などを備蓄するには経済的困難が生じますが、お供え物セットを一定期間の消費期限がある食品にすることで、ローリングストックのように備蓄すれば、災害時の備えとしても活用できます。消費期限が近づいたものは、各種の支援組織に寄贈することで循環させることができます。

何に備えるか、何を供えるかを、寺院を取り巻く環境や地域の実情などを考慮しながら検討することで、この取り組みは多岐にわたる可能性を秘めていると言えるのではないでしょう。

 

結びに ― 共に生きる社会を築きましょう

ソナエルプロジェクトにご参加いただくことで、故人への善行の功徳を、より多くの人々と分かち合うことが可能となり、先祖供養を通して積み重ねられてきた目に見えない功徳が、地域社会で生きる人々への目に見える現世利益として現れます。

布施・愛語・利行・同事という四摂法を実践するソナエルプロジェクトは、地域に根差した寺院として、地域社会の安心を高め、地域の方々との繋がりを深め、誰もが安心して暮らせる「地域共生社会」を実現するための、確かな一歩になると信じています。

 

【ソナエルプロジェクト参考記事】

曹洞宗の多様性と包摂を考える(取材報告)

「ソナエル project」 ご協力のお願い~曹洞宗におけるSDGs推進に当たり資料作成のための モニターを募集いたします~(現在は募集しておりません)

ソナエルプロジェクト座談会

(曹洞宗SDGs推進委員会)